私にとっての特別。
それは、誰にだって心の片隅にささやかに存在するものではないだろうか。
世間を知らない私が多くの反対を押し切り、半ば強引に大学を中退し農業を志したのは10年前。
そこから挫折続きで今まで。
どれだけ時間が経っても、どんな時間を過ごして来ても、
人生で経験したことのない、まったく新しい感覚が目の前に現れ、身体の根元から感動が湧きあがった時のことは何時まででも鮮明に覚えているもの。
視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。
普段は忘れていても、その時期が来れば必ず思い出すその感覚。
確実にこの身体を通して魂に刻まれ、もう一生消えるがない。知識や想いではなく、無意識の世界にそれは存在する。だが、それは間違いなく私という中に。
挫折をしても諦めなかった10年。
そこには、ささやかな特別というものが私の中で無意識に作用したのかもしれない。それは分からないが、何か理由があるはず、私はいつだって諦めることを手に握りしめ農業をしているのだから。
この、どの時代も主役ではなかったこの野菜が何故私の中で特別なのかは分からない。
だが、初めて口にした時の驚きは今も鮮明に覚えている。
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